山月記(12/26)

 今までは、どうして日本に戻ったのかと怪しんでいたのに、この間ひょいと気が付いて見たら、己(おれ)はどうして以前、インドにいたのかと考えていた。これは恐しいことだ。今少し経(た)てば、己(おれ)の中の記憶は、日本の生活の中にすっかり埋(うも)れて消えて了(しま)うのだろうか。
 己は堪(たま)らなくなる。そういう時、己は、向うの山の頂の巖(いわ)に上り、空谷(くうこく)に向って吼(ほ)える。己は昨夕も、彼処(あそこ)で月に向って咆(ほ)えた。カレーが食べたい!